『次世代マーケティングプラットフォーム 広告とマスメディアの地位を奪うもの』

『次世代マーケティングプラットフォーム 広告とマスメディアの地位を奪うもの』(湯川鶴章ソフトバンククリエイティブ/1600円)を読み終える。先端技術を専門とする時事通信編集委員による、主にインターネットを使ったマーケティングのテクノロジーに関して書かれた本である。著者曰く「メディアと広告とウェブの未来をはっきりと見ることができた、という強い確信を持てた」とのこと。先日読んだ『宣伝費をネット広報にまわせ 戦略的マーケティングのすすめ』と同様、TVアニメ『サザエさん』に登場する磯野家出入りの酒屋・三河屋を例えに使い、IT技術の進化が三河屋的なワン・トゥ・ワンのきめ細かいサービスを実現するであろうという予測について述べている。
インターネットを利用したマーケティングツールに関してはまだまだ知識不足なので、米国では、ウェブ解析のOmniture(オムニチュア)、SaaSCRMSalesforce.com(セールスフォース・ドットコム)、広告配信のDoubleClick(ダブルクリック)の3社が有力な企業であるということは知らなかったが、今は日本でもそれらのシステムを連携できるツール(Omniture Genesis)が存在するとのこと。そのツールにどれだけのコストがかかるかは不明だが、ひじょうにおもしろいシステムだなと思った。とはいえ一方では、自分の嗜好が企業に把握されちゃうのはなんか嫌だなという感じもあり、新しい技術に関しては、「モノを買う自分」の感覚も確認しながら慎重に検討していきたい。なお本書では、Omnitureを始めとするPC上のマーケティングプラットフォーム(54ページ)とデジタルサイネージ(37ページ)の記事に多くを割き、モバイル(13ページ)に関する記事はすごく少ない。よりピンポイントなワン・トゥ・ワンを目指すために、どうモバイルを活用するかが今後の課題なんだろうなと思った。
印象に残ったのは下記。

企業から消費者に発するメッセージは、細かなターゲット層向けにいくつも用意され、受け手にとってよりパーソナライズされたものに変化していく。それは広告というより販売促進に近いコミュニケーションになり、クリエイティブよりテクノロジーが重要になるということだ。(P.7)

「商品やサービスが必ずしも消費者の記憶に鮮明に残るものである必要はない。製品やサービスは、単に満足を得るのに十分であり、購入可能な価格帯であり、アクセス可能であり、便利であればいいだけである」(P.51-52)レジス・マッケンナ『Total Access』より。

マーケティングプラットフォーム」の核になっているのが、ウェブ解析のOmniture(オムニチュア)、SaaSCRMSalesforce.com(セールスフォース・ドットコム)、広告配信のDoubleClick(ダブルクリック)の3社だ。(P.58)

(顧客から問い合わせの電話を受けてから電話をかけたり、メールで返答するのは何分以内が効果的であるか) セールスの効果が最も大きかったのは5分以内。その後、効果は急速に減少し、30分後には効果はほとんどなくなることがわかった。(P.67)

……話をうかがっていると、顧客情報をより多く持っている企業が有利になるような感じがするが。
確かにこれからの時代は、顧客の情報を持っている企業の勝ちだろう。(P.88/ジョージ・フー Salesforce.com上級副社長インタビューより)

※CCCがTカード事業に注力していた(る)のも、このあたりが理由か?

デジタルサイネージならば、広告の切り替えは広告会社側で一元管理できる。インターネット上の広告ネットワークと同じメリットがあるわけである。
デジタルサイネージは、ただ新しいメディアというだけではない。リアル環境の中に現れたオンラインメディアなのである。(P.125)

店舗は最後のマスメディアになる。(P.125)

※マスを使った店舗への導線の確保をどうすればよいか?

Wal-Mart(ウォルマート)、Best Buy(ベストバイ)、Circuit City(サーキットシティ)、Sam's
Club(サムズ・クラブ)、Costco(コストコ)、Albertsons(アルバートソン)……。米国を代表するような大手小売店チェーンへのデジタルサイネージの設置は高い効果が期待されている。これら大手小売店チェーンの店頭でデジタルサイネージのネットワークを展開しているのが、フランスのマルチメディア家電大手Thomson(トムソン)傘下の米PRN(プレミア・リテール・ネットワークス、本社サンフランシスコ)だ。同社は、約6500の店舗の売り場に22万5000台のデジタルサイネージを設置している。(P.125-126)

※4週間で2億5000万人が来店するそうだ。ただ「米国人の約8割にリーチできている計算」っていっても、こういった小売店って複数回来店者もそこそこいるだろうから、ちょっとこの計算は乱暴すぎだと思う。

「ディスプレイを何人見ているか、POSデータ、在庫データ、外の気温など、ありとあらゆるデータを解析し、表示する広告を自動生成できるようにすれば、非常に面白いことになりますね」(P.140/Omniture社・水嶋ディノ デジタルサイネージに関して)

デジタルサイネージのネットワークにフィットするショップはどこだろうか。コンビニ・チェーンか?

大手広告会社の最大の資産は、コンテンツだ。
広告会社はコンテンツ・マネジメント・システムの開発に力を入れるべきだろう。
それとメタデータに関する技術。メタデータを使えば、いろいろな媒体向けに広告を自動生成できるようになる。
(P.146-147/マノロアルマグロ 元MarketForward最高技術責任者インタビューより)

自動化の実現には、メタデータを用いたコンテンツ・マネジメント・システムが必要になる。
(P.147/マノロアルマグロ 元MarketForward最高技術責任者インタビューより)

メタデータの重要性はより高まっていくのだろう。

最終的な利益を重視するならば、消費者の感性に訴えるような印象深いメッセージを何度も何度も見せることよりも、顧客のニーズを正確に把握し適切な商品を適切な価格で供給する関係を築くことのほうが、これからはより重要になるのだ。(P.189)

スターンバーグ氏は「人々はコミュニケーションしたがっている。大事なのは人々が友達に話したくなるような話題を提供するような広告のあり方を模索することだ」と語る。(P.195/スターンバーグ氏 = meebo創業者:セス・スターンバーグ)

数年前にインターネットに接続可能な冷蔵庫の新製品の記者発表会に出かけたことがある。詳しい機能は忘れたが、確か冷蔵庫の扉にディスプレイが搭載されていて、ネット上のレシピを検索できるようになっていたように記憶している。ネット接続機能を搭載しているのだから、普通の冷蔵庫よりも当然割高になる。20万円以上したように思う。(P.196)

※これは時期が早過ぎただけで、家庭内デジタルサイネージにも成り得たんじゃないだろうか?

仮説の段階で、短期間に数多くの講演をこなすというのは、本を書く上で非常に有効なマーケティング手段であることを実感した。(P.209)


『次世代マーケティングプラットフォーム 広告とマスメディアの地位を奪うもの』