富野由悠季監督講演会

3月22日(日)、2009かみいぐさアニメまつり・ガンダムモニュメント完成1周年記念・富野由悠季監督講演会(at:杉並区立井草中学校体育館)へ行く。西武新宿線上井草駅前にガンダムモニュメントが設置されてから、1年が経過したことを記念してのイベントである(除幕式は2008年3月23日)。
講演会は14時スタートの予定だったが、集客の状況などがわからなかったので会場には早めに到着。おかげで先着300名に配布していた抽選券をゲットする。
地元のPTAの方々によって結成されたバンドの演奏会、ガンダムモニュメント完成除幕式ニュース・ビデオ映像上映、ガンダムモニュメント清掃感謝状贈呈を観た後、いよいよ講演会。という流れだったのだが、講演会のセッティング中、司会の方々が間をつないでいる姿を見かねて(笑)、富野監督が登場。フリートークがスタートする。
ガンダムモニュメントに関しては、「自分の生活空間にアニメのあんなもんができるなんて」、「殴り飛ばしたい、壊したい」とのことだったが、「製作には国家権力が介在していて、自分の意図ではどうしようもない」ため、「壊さないですむようなものを作ってもらう」ことにしたそうだ。
ここで観覧者にも質問の機会が設けられる。「富野監督の作品の最終話は謎な話が多いが、それはなぜか?」という質問に関しては(質問者がエルガイム好きであることを告げた際、監督がこけていたのが印象的。ちなみにエルガイムは記憶にないそうだ)、「シリーズものは全部語り切ってはいけない」との回答だった。「10周年にはF91、20周年にはターンAと作ってきたが、今後の予定は?」との質問には、「要請があればやるが、自分からは手を挙げない」とのこと。「健やかな年寄りになる努力をしたい」らしい。また「若者たちは何をめざしていけばいいか?」の質問には、「未来を見える人はいない。どんな状況にでも対応できる自分を作ること」と答え、「明日がどうなるかわからないので、穏やかに死ねる“私”でいるのが大切。今日ここに来るよりも、東京マラソンへ行くのが正しい(会場笑)」と続けた。ここでセッティングは終了し、講演本編はスタート。
※以下、印象深い発言をざっくりと記します。メモを基に再構成しておりますが、発言者の意図とは異なっている可能性もありますので、その点、ご容赦ください。

富野由悠季
なぜアニメの放映後、30年たってここに立っていられるか。TVマンガ映画をやっていても、こういう立場(編者注:多くの人の前で講演を行なう立場か?)になりたいと思っていた。巨大ロボットアニメというジャンルが好きというわけではなかったが、そのジャンルがオリジナルのストーリーをやる余地があったからやってきたのである。原作付きのものは、宮崎駿高畑勲くらいの力がないと、原作に負けてしまう。『アルプスの少女ハイジ』のコンテの時に彼らの力を知り、それで巨大ロボットアニメの専門家になった。宮崎駿高畑勲に勝つには、オリジナルをやって生き残っていくしかなかったのである。
3本目で、SF映画になり得るような構造の作品を作りたかった。当時は巨大ロボットアニメの衣装(意匠?)を使い、さまざまなジャンルの実験をしてみた。大人たちの言うことを聞いてみせるという擬態を演じていたのだが、それは好きなものは好きに作れるというわけではないからだ。
60年代〜70年代、SFが映画として、なぜつまらないのかと思っていた。自分は中学、高校の頃は宇宙系のオタクだったが、いろいろとSF映画を観た結果、好きモノに映画を作らせるとつまらなくなるということがわかった。映画の根本は人間関係の物語としてできていなければならないが、それができていないものが多かった。
中高生の頃に一番やりたかったのは、ロケットの製作である。自分の能力の関係で、アニメを製作するようになった。アニメの製作において、巨大ロボットはおもちゃメーカーの要請で登場させざるを得ない。しかし自分の作るアニメを、おもちゃメーカーのCMにするつもりはなかった。それは電波は公共のものであって、一スポンサーのものではないからだ。自分としては、嘘八百のストーリーに付加価値をつけることを心がけた。例えば「人類が増え過ぎたため、宇宙に進出した」というガンダムの設定は、現代の課題にもつながっているから、今、大人が話題にしても違和感のないものになっている。ただ電波は一スポンサーのものではないが、スポンサーがいるからアニメを作ることができる。自分の立ち位置で利用できるものは使うようにしているし、利用してもらえる「我」であるべきである。それにはピンポイントのテーマを作るのではなく、周りを見るセンスを身に付けることも大切だ。
政治哲学者・ハンナ・アーレントによると、かつて人間は物を信じることしかできなかったそうである。我々は独自に判断していくことはできない。大学生に言っておきたいのは、「独自にモノを考える訓練を積んでいるのか?」ということ。それぞれの事象の一番根本は何か、それを捉えることも必要である。過去のコピーに過ぎないものか、改善されたものなのか、伝統芸能と言われるものでも自己改革が必要なのである。また矛盾するようだが正確に過去も学んでいかなければならない。

ガンダムのモニュメントはなるべく早く撤去して欲しいと思っている。しかし癇に障ることがなくなってきたので、末永くご愛顧の程を。

以上が記録を取れつつ(早口なのでメモが追いつかない)印象に残った富野由悠季のことばである。
講演の間、富野監督は演台の前にずっと進み出ていて、身振り手振りを織り交ぜながら聴衆に熱く語りかけていた。彼から放射される熱量は、67歳という年齢を感じさせない程。しかし講演を聴くと、彼はただ熱にのみ動かされてきたのではなく、きちんと自身と周囲の状況をつかみながら活動してきたということがわかり、あらためてすごい人だなあと感じさせられた。


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