『宣伝費をネット広報にまわせ 戦略的マーケティングのすすめ』

『宣伝費をネット広報にまわせ 戦略的マーケティングのすすめ』(濱田逸郎、神原弥奈子、鈴村賢治、石黒不二代、湯川鶴章時事通信社/1700円)を読み終える。親切なことにこの本の結論は開始4行目に書かれていて、その結論というのは「広報業務は、21世紀の企業活動の中核になる可能性がある。企業の最重要業務になる可能性がある」ということ。なぜそうなる可能性があるかを、5つの項目から解説している。先日読んだ『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』と同様、インターネットの浸透などにより変化した消費者たちと、どのようにしてコミュニケーションを取っていくかについての方法論が記されており、本書もひじょうに参考になったのだが、両者を比較し心に残ったのは『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』の方。これは読者に対して、前者が広告的に、後者が広報的にアプローチをしているからのような気がしている(ニューズ・ツー・ユー社・神原、プラスアルファ社・鈴村の担当章がやや宣伝っぽかったのはご愛嬌か)。前者の中で佐藤尚之が書いていたクリエイティブの大切さを、あらためて感じさせられた。

ちなみに、本書で印象に残ったのは下記。

【ネットPR概論/江戸川大学教授・濱田逸郎】
「ワン・ツー・ワン・マーケティング」を提唱したドン・ペパーズは、日本の富山の薬売りが客先の家族構成や嗜好、病歴などに通じ、個別に対応するビジネススタイルからそのヒントを得たと言っている。

【最先端ネットPRの実践/株式会社ニューズ・ツー・ユー・神原弥奈子】
わたしは、インターネット普及以前のニュースリリースをマスコミ向けの情報提供という意味で「プレスリリース」、インターネット普及以後の企業発の情報を「ニュースリリース」と便宜上分けている。プレスを通さなくても、ネットを使って届けたい人に届けることのできるリリースだからだ。

これまで社外に出す情報はすべてマスメディア経由でしか流通しなかったため「マスメディアにとって有益な情報」を選択することが習慣化してしまっているのだ。情報の受け手を「マスメディア」から離れ、例えば「社員」、例えば「就職活動をしている学生」「既存のユーザー」といったように広げて考えれば、一人ひとりのステークホルダーにとって有益な情報は、社内にたくさんあることに気づくだろう。

ケンコーコムの画期的な情報発信
同社のニュースリリースは、マスメディアで話題になったキーワードと商品名が連動したランキング情報で、検索が予想されるキーワードをニュースリリースの見出しや本文に取り入れたものになっている。

検索結果に表示される関連情報における自社情報の占める割合が高ければ高いほどよい。点からの誘導ではなく、面でユーザーを誘導してくることが重要だ。

(「ニュースリリース ポータル」で検索すると、「ニューズ・ツー・ユー」の情報が面で出てくるのはお見事)

【広報に利用できる最新テクノロジー/株式会社プラスアルファ・コンサルティング・鈴村賢治】
だれにどんな内容を「伝えるか」ではなく、「どう伝わっているか」をキャッチしながら、それに合わせたコミュニケーションの微修正が必要なのである。

お客様相談窓口の連絡先に併記してある「ご意見、ご感想はこちらまで」という形式的な文面を、「お客様のお声をお聞かせください」に変更した。この記載変更後で、“お褒めの言葉”の件数が2倍近く増えたという。

広告・宣伝費をかけて新規顧客をとにかく増やす「攻めの戦略」から、限られたリソースの中で最大の効果を上げるために自社の顧客をしっかりと維持する「守りの戦略」への転換時期に来ているのではないだろうか。

【究極の未来から現在へ/時事通信社編集委員湯川鶴章
アウトドア製品を取り扱うネット通販サイトの「ナチュラム」の代表取締役会長兼社長CEO 中島成浩氏は、「一度商品を購入していただいた顧客に対して、上方向と横方向でアプローチしています」と言う。上方向とは、同じ商品カテゴリーでさらに値段の高いものという意味。横方向とは、購入商品に関連する商品という意味だ。

『宣伝費をネット広報にまわせ 戦略的マーケティングのすすめ』