『コンテンツ学会 設立記念シンポジウム』



コンテンツ学会 設立記念シンポジウム』(at:秋葉原コンベンションホール)に出席する。コンテンツ分野を総合的に取り扱う「コンテンツ学会」がスタートするにあたり、開催されたシンポジウムである。
初代会長・堀部政男のあいさつに続き、事務局長・金正勲による趣旨説明。ここで印象に残ったのは、「コンテンツ学会は、デジタルコンテンツ学会ではなく、コンテンツ産業学会でもない」ということば。何を以て「コンテンツ」と言うのか、学会の立ち位置をどこに置くのかに関し、今後注目していきたいと思う。
その後、来賓の挨拶。予定されていた麻生太郎は欠席。原口一博も欠席だったが、鈴木寛も登場するビデオメッセージが流された(「解散間近でもうしわけございません」とか「政権交替のチャンス」などと言っていた)。
政治家たちの後は、関係省庁の官僚のあいさつ。経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課課長・村上敬亮、総務省情報通信政策局コンテンツ振興課課長・小笠原陽一、内閣官房知的財産戦略推進事務局内閣参事官・大路正浩氏、文化庁長官官房著作権課課長・山下和茂が登壇。型通りのあいさつだろうと思っていたら、意外と話がおもしろくてびっくり。
以下、印象に残ったこと。
【村上】
・音楽産業全体で見ると、カラオケの売上減を除くと、売上対比98.5%。…… (私見)なぜカラオケの売上減を除くのかは不明。カラオケの利用者が減ると、著作権者の収入も減るのではないだろうか?
・トレンドセットなど、コンテンツの意義を広く考えるべきでは。他産業の売上にコンテンツは貢献できる。
・パリで行なわれたJAPAN EXPOは来場者が12万人と、カンヌ映画祭の半分。
村上氏が書いたコンテンツ学会に関するブログは下記。ディテール部分に若干違うのではないかという箇所はあるが、芯を食った文章である。
http://japan.cnet.com/blog/murakami/2008/10/11/entry_27016992/
【小笠原】
・技術は進歩するが、使っている人が不便を感じたり、ストレスを感じたりしてはいけない。
・作る人あってのコンテンツ。コンテンツが商売にならなかったり、海外と比べてギャラのケタが違うため、海外へ拠点を移すクリエーターが増えている。クリエーターに適正な報酬を戻す必要がある。
【大路】
・コンテンツの売上を14兆円から19兆円に増やすのが、政府の目標。海外への展開と、ネットへの進出を進めていく。
フェアユースが、さも決まったかのような報道が出ているが、現状は未定。年内には結論を出したい。
【山下】
・芸術文化立国をめざす。
・国家は基礎研究に対し一定の投資をしているが、文化に対しても同様に投資してもいいのではないか。
・国家が文化をパトロネージュする研究はされていない。
続けてパネルディスカッション。パネラーはデジタルハリウッド大学学長・杉山知之、東京大学先端科学技術研究センター教授・玉井克哉、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授・中村伊知哉、コーディネーターは慶應義塾大学DMC機構准教授・金正勲。パネラーたちの紹介の後、会場よりパネラーたちへの質問・要望コーナーとなった。
印象に残ったのは、コンテンツ会社経営の方がおっしゃった資金調達に関する要望。中小企業が多く、銀行からの借り入れが難しいコンテンツ企業に対し、資金調達の方法を考えてはもらえないかということだった。質問者の語り口が独特で、会場からは笑いが起こっていたが、これってかなり重要なことのような気がした。玉井克哉は、国がお金を出すべきでなく、マーケットがお金を出すべきだと答えていたが、正直、産官学連携のオープンプラットフォームを目指すコンテンツ学会の第一回シンポジウムにおける回答にはそぐわない気がする。現代美術館のインターンからも、文化庁がクリエーターにお金を出していることに関し玉井は誤解しているとの発言があったが、玉井は既存の芸術家に新しい芸術家を判別することはできないとの観点から、あくまでもクリエーターたちに税金を使うのは反対との立場を崩さなかった。
もう一点、印象に残ったのは「日本のコンテンツで特徴的なものは何か」という質問に対する答え。中村伊知哉の「いい大人がマンガを読んだり、女子高生たちが携帯でギャル文字を作ったり、庶民レベルで審美眼を持った人間が多い。このポップなオーディエンスの存在が重要」との答えには、なるほどねーと思わされた(この人、昔、マックパワーで連載してたんだね。思い出した)。
今回、このシンポジウムに出て収穫だったのは、以前、早稲田大学で開催されたコンテンツ・ワークショップ『デジタルコンテンツ市場の課題と発展の方向性』(http://sceneoftown.22.dtiblog.com/blog-entry-636.html)に出席した際に感じた、違和感の正体がつかめたような気がすること。アカデミズムの人から感じる「お金を産み出すシステムに関する視点」が欠けているような雰囲気、それが違和感の正体だったようです。
ちなみにリーフレットとともに配布されたチラシなどから、この学会の慶應色の強さを感じた。コンテンツ分野(中でもエンターテインメントジャンル)では早稲田が強いはずなので、ぜひ境真良にはがんばってもらいたい。
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