『博士の愛した数式』



博士の愛した数式』(小川洋子/新潮社/1500円)を読み終える。交通事故によって脳に損傷を受け、1975年までの記憶と、直近80分間の記憶しか持てない天才数学者“博士”と、語り手である家政婦、博士に“ルート”と呼ばれる彼女の10歳の息子(頭のてっぺんが、ルート記号のように平らなため/阪神タイガースファン)の日常を描いた物語である。それぞれの折り目正しさ、各人に対する敬意と尊重の姿が美しい文体でつづられ、読み進むごとに心に温かいものが積み重なっていく。メインキャラクターである博士の、数学、家政婦の息子、そして阪神タイガース(特に江夏!!)に対する愛情が微笑ましい。透明度の高いひじょうに美しい小説で、読み終わった後、静かな感動が心に充ちあふれた。
ちなみに小説に限らず静かな雰囲気の作品が好きなのだが、なぜ自分がそういった作品に惹かれるのか、答えのひとつが作中に記されていた。以下に引用。

 正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべきものがあるべき場所に納まり、一切手を加えたり、削ったりする余地などなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。博士はそれを愛していた。(博士の愛した数式/P.89/小川洋子/新潮社/1500円)

ぼくもそんな状態を愛しているのだろう。とにかくこの作品、ぼくの心のベスト5には確実に入りそう。ぜひ読んでくださいね!!


『博士の愛した数式』