『舞踏会へ向かう三人の農夫』



『舞踏会へ向かう三人の農夫』(リチャード・パワーズみすず書房/3200円)を読み終える。1914年、ドイツの写真家アウグスト・ザンダーが撮った『舞踏会へ向かう三人の農夫』と題された写真から生み出された小説である。そこに写された3人のストーリーと、現代のアメリカでこの写真に取り憑かれた男のストーリーと、謎の女性を追い求める雑誌編集者のストーリーが、順番に語られる構成となっている。
1枚の写真から生み出された3つのパラレルな物語は、第1次世界大戦などの歴史的出来事、ヘンリー・フォードサラ・ベルナールなどの歴史上の人物を介して干渉しあい、20世紀という時代を描くとともに20世紀から21世紀に向かう我々をも描いている。ペダンティックなタッチがひじょうに魅力的な作品だが、特にそこで論じられている写真における撮影者、被写体、鑑賞者の関係(世界との関わりにも通じるか)や、歴史における過去(記憶)、現代、未来に関する思索はすごく興味深く、心に残った。 文句なしにおもしろい小説である。大おすすめ。

『舞踏会へ向かう三人の農夫』