『母なる夜』



『母なる夜』(カート・ヴォネガットJr/ハヤカワ文庫/505円)を読み終える。第二次大戦中、ナチスドイツの宣伝部員として対米ラジオ放送のキャンペーンを行なったアメリカ人が主人公の小説である。体裁としては、彼の書いた自伝というスタイルをとっている。
奇妙なできごとにまきこまれ、人生を弄ばれた人間の姿が、作者特有の冷たいユーモアで描かれた作品である。作中の、
“いやはや?人間が営もうとしている生活ときたら。
いやはや?彼らが生活しようと試みているこの世界ときたら!”
という文章に代表される、人間のちっぽけさ、世界の無常さなどが心に残った。ポジティブなストーリーではないが、心にしみ入る作品だった。冷たく絶望に充ちた世界にいるからこそ、温かみが存在することを感じられるのだろうかなどと考えたりしてしまった。

『母なる夜』