『楠木正成』



楠木正成』(北方謙三中央公論新社/1900円)を読み終える。一連の北方南北朝ものの一作である。今までは赤松円心佐々木道誉北畠顕家など、どちらかといえば南北朝期の脇役的人物が主人公に据えられてきたが、今回は主役陣の1人が主人公である。
この作品では、今まで忠臣という扱いが多かった楠木正成を、“悪党”(悪い人ということでなく、歴史用語としての)というスタンスから捉えている。物流を支配することで力を付け、乱れていく世の中で、武士による支配体制に組み込まれないよう人としての有り様を模索していく楠木正成の姿がストーリーの骨子をなしている。楠木正成というキャラクターが魅力的に描かれているのはもちろんのこと、正成・正季兄弟の絆、大塔宮との関係、赤松円心とのつながりなどの熱い描写は、男を描く作家・男の人生を描く作家、南畑……ではなく北方謙三の面目躍如といったところで、心のマグマをこれでもかと揺り動かしてくれる。加えて赤松円心佐々木道誉北畠顕家といったこれまでの作品の主人公たちがカメオ出演しているのも、一連の作品を読んできたものにとっては、にやっとさせられてしまう。
やはり北方南北朝ものはいいなあと改めて感じさせられる作品だった。

『楠木正成』