『クライマーズ・ハイ』



クライマーズ・ハイ』(横山秀夫文藝春秋/1571円)を読み終える。地方新聞社を舞台に、御巣鷹山日航機墜落事故を描いた物語である。主人公は地方新聞社の記者で、日航機墜落事故の記事作りの現場責任者。上司や部下との軋轢、社内の派閥争い、同僚の事故、自身の家庭の問題などに苦悩しながら、大事故を報道していく主人公の姿が描かれている。上毛新聞の記者として日航機事故の現場を取材した著者の経験がベースとなっている。
主人公は、現場の記者からの報告や配信された情報などから記事を作るという間接的な立場にいるため、事故に対するスタンスは読者に近く、そのことが主人公の事故への想いを、読み手としてもより近いものとして感じさせる。そのためフィクションというフィルターを通しているものの、日航機墜落事故が、より強く重く伝わってきた。
あまりにも多くの死。しかし生きているものたちは、それぞれの関係の中で生活をしていく。日航機墜落事故を報道していくことを通じて、父子関係、同僚の息子との交流、父子的にとらえてきた上司・部下との関係が変わっていく主人公の心境もまた、痛いほど心に響いた。
ひじょうにいい小説だった。大おすすめ。

『クライマーズ・ハイ』