『タイムクエイク』



『タイムクエイク』(カ−ト・ヴォネガット早川書房/1900円)を読み終える。タイムクエイクという時空連続体に発生したとつぜんの異常で、2001年2月13日から1991年2月17日へと世界が逆もどりしたことを基本設定にした小説である。タイムスリップを扱った作品、例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やケン・グリムウッドの『リプレイ』などでは、主人公が過去に関する知識を元に歴史に干渉しているが、この作品におけるタイムクエイクは、“あらゆる人間とあらゆるものが、過去十年間にしたことを、よくもわるくも、そのままくりかえすしかなくなる”というもの。“いわば既視感が、えんえん十年間もつづく”ということである。
多くのヴォネガット作品と同様、それぞれのシーンは時系列順には進まず、加えてリプレイという設定が時間の感覚をより不安定にさせている。また作者自身のエッセイも随所に挿入され、フィクションとノンフィクションの境界さえあいまいになっていく。これまでの作品に比べ、ヴォネガットという人間がより濃く反映されているという点がなかなか興味深かった。しかしそれまでにあったシニカルさは影を潜め、何か寂寥感のようなものが感じられる。それは作者であるヴォネガットがこれを最後の作品としていることが、読み手である自分にも影響を与えているのかもしれない。

『タイムクエイク』