『ホーカス・ポーカス』



『ホーカス・ポーカス』(カート・ヴォネガット/ハヤカワ文庫/780円)を読み終える。ベトナム戦争中、広報渉外担当将校として記者団や補充兵に対し、呼吸するように自然な調子で嘘をついてきた(大本営発表みたいなものだ)ユージン・デブズ・ハートキという男が主人公。戦後、金持ちの子息用の大学で教師をしていたが解雇され、刑務所に職を見つける。その刑務所で脱獄事件が発生し、それに連座して審判を待つ身となったハートキが、自分の人生を振り返るという自伝的スタイルの小説である。手近にあった紙切れに彼の人生の一シーン一シーンを書いていくという形式をとっているため、細かいシチュエーションの組み合わせがスピード感を生む。また細切れだったシーンが、物語が進むにつれ次第に収束していくというのは、心に静かにボディブローを与える。
そこはかとないユーモア、ちりばめられた警句など、ヴォネガットテイストが全編に満ちあふれる、ほんとにおもしろい小説だった。
ちなみに“ホーカス・ポーカス”の語源は、奇術師が唱えるラテン語まがいの呪文で、そこから目くらましとか、嘘をごまかすための作り話という意味が生まれたということです。

『ホーカス・ポーカス』