『となり町戦争』


『となり町戦争』(三崎亜記集英社/1400円)を読み終える。となり町との戦争が始まることとなった町で、町の役所から偵察業務従事者に任命された男が主人公の小説である。実際に軍事力を用いた戦争であるにも関わらず、その戦闘行為が限定的であるために、実際に戦闘に従事していない人間にとっては、「戦争」という大きな出来事であってもリアリティを感じられないという様子が、淡々とした筆致で描かれている。主人公は戦争が起きているという事実を、町の広報誌の戦死者数でしかとらえられないのだが、それはニュースとか日経平均株価の「数値」でしか不景気をとらえられない今の自分自身の感覚にもつながり、その「現実」と「現実感」が乖離しているという感覚がリアルに伝わってきた。おもしろいタイミングで読むことができた。

『となり町戦争』