『ピッチサイドの男』



『ピッチサイドの男』(トーマス・ブルスィヒ/三修社/1200円)を読み終える。装丁の美しさに、思わず手にした小説である。旧東ドイツ出身の作家、トーマス・ブルスィヒによって書かれ、旧東ドイツのサッカー監督のモノローグという形式を取っている。彼が監督に就いた東西分裂時代に始まりベルリンの壁崩壊後に至るまでのサッカー状況と、壁の警備兵だった彼のチームの主力選手が起こした“事件”を語り倒すことで、かつてのそして現在の東ドイツの状況があわせて浮き彫りになってくる。とにかくサッカーのことしか語られていないが、物事を突きつめて見続ければ普遍性にたどり着くのだということがユーモアとともに伝わってきた。語り手の熱情が微笑ましく、じんわりと心を和まされる作品だった。

『ピッチサイドの男』