『エドウィン・マルハウス』



エドウィン・マルハウス』(スティーヴン・ミルハウザー福武書店/1748円)を読み終える。“子供によって書かれた子供の伝記”という形式の小説である。主人公(伝記の対象)エドウィン・マルハウスは10歳でアメリカ文学史上に残る傑作 『まんが』を書いて11歳で死んだ作家、伝記作家はエドウィンの隣家に住む幼なじみの11歳の少年ジェフリー・カーライトという設定。 構造としては作者スティーブン・ミルハウザー→伝記作家ジェフリー→エドウィンといった仕組みになっている。子供が書いた子供の伝記という形式とはいえ、書き手を優秀な少年としているため、内容はまさに伝記そのもの。エドウィンの、ある意味少年らしい生活も、ジェフリ−の手にかかると大芸術家の芸術家らしい人生として読者に提示される。逆にあまりに上段に振りかざしたような伝記的文章により、数多ある伝記のパロディーのようにも読めてしまったりするのも技巧のひとつなのだろう。この作品を読んでいて、芸術家はその存在自体が芸術家なのか、または評価するものがないと芸術家たりえないのかということをつらつらと考えてしまった。加えて子供の世界へのノスタルジーの描写も美しく、ひじょうにおもしろく読めた小説だった。

『エドウィン・マルハウス』