『ノックス師に捧げる10の犯罪』



『ノックス師に捧げる10の犯罪』(ヨゼフ・シュクヴォレツキー/早川書房/1748円)を読み終える。チェコスロヴァキアのナイトクラブ歌手であるイヴ・アダムが、 国家認定の出稼ぎ芸能人として訪れるさまざまな国々で、事件に出くわすという設定の短編集である。タイトルにある“ノックス師”とは、“ノックス師の十戒”という探偵小説のべからず集を考案した人のこと。収録されているすべての作品が、“ノックス師の十戒”のどれかを破っているというのがこの本のウリである。
古い作品なだけに、全体にクラシックな雰囲気が漂う味わい深い短編集であった。
ちなみに“ノックス師の十戒”は以下のとおり。
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ノックス師の十戒
第一条
犯人は物語の早い段階で言及される人物でなければならない。ただし、読者が思考を追うことを許されている人物であってはならない。
第二条
当然ながら超自然的要素や魔術的要素を物語に持ち込んではならない。
第三条
秘密の部屋、秘密の通路は、一つに限り許される。ついでにいえば、そのような構造が予想される屋敷が舞台になるのでなければ、秘密の通路を持ち込むべきではない。
第四条
これまでに発見されていない毒物や、結末で長大な科学的説明が必要とされる小道具は使ってはいけない。
第五条
中国人を重要な役で登場させてはいけない。*
第六条
探偵は偶然に助けられてはいけない。説明のできない直感に頼って真相をつかむことも許されない。
第七条
探偵その人が罪を犯してはいけない。
第八条
探偵が手がかりをつかんだときには、即座に読者もそれを検討できるようにしなければならない。
第九条
探偵の愚かな友人であるワトスン役は、自分の頭に浮かぶ思考を隠してはいけない。その知性は、わずかだけ、ごくわずかだけ、平均的な読者の知性を下回っていなければならない。
第十条
双子の兄弟など、誰かと瓜二つの人物は、その出現を自然に予想できる場合を除いて登場させるべきではない。