『儚い光』



『儚い光』(アン・マイクルズ早川書房/2200円)を読み終える。ナチスドイツに家族を殺されたユダヤ人男性の手記という形式をとった小説である。ホロコーストというつらい記憶を抱えた人間の、心の変遷が繊細なタッチで描かれている。ところどころにインサートされる姉との思い出、過去の記憶などが、主人公の心の痛みをより深く感じさせる。哀しみに充ちた小説ではあるが、その静けさに心を打たれた。
ちなみにぼくにとって喪失感というのはけっこう痛ぁいテーマなんだけど、文中の“なにかをなくしても、それをなくしたという記憶さえのこっているなら、それは喪失ではない。”という文章になんとなく心が洗われた気がしましたね。

『儚い光』