『博士の愛した数式』



東京国際映画祭で『博士の愛した数式』を観る。交通事故によって脳に損傷を受け、1975年までの記憶と、直近80分間の記憶しか持てない天才数学者“博士”と、その家政婦、博士に“ルート”と呼ばれる彼女の10歳の息子(頭のてっぺんが、ルート記号のように平らなため/阪神タイガースファン)の日常を描いた物語。原作が大好きなので、とりあえず観に行くことにしたのである。
大きく原作と異なる点は、
・物語が大人になったルートの回想として語られる(原作では家政婦が語り手)
・博士と義理の姉との関係性が、原作に比べて強いように感じられる
・博士が野球をする(原作ではやらない)
博士と義理の姉との関係の語り方とか、音楽の使い方とか、ウェットな雰囲気が伝わってきて、ターゲットは中高年女性なのかなという印象を受けた。個人的には原作の、博士と家政婦とルートの関係性:それぞれの折り目正しさ、各人に対する敬意と尊重の姿に感動したのだが、博士と義理の姉にもフォーカスしたこの映画のアプローチも、これはこれで映画としてはありかなと感じた。
博士役の寺尾聰をはじめとする役者陣はほぼ適役で、観ている内に原作を思い出し、何度もほろほろと来ちゃったわけですよ(笑)。特に大人になったルートを演じた吉岡秀隆がよく(いい構成だと思う)、原作との相違は、涙が流してくれました(笑)。おすすめです。
最後に、原作ですごく気に入っているフレーズを引用します。
 正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべきものがあるべき場所に納まり、一切手を加えたり、削ったりする余地などなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。博士はそれを愛していた。(博士の愛した数式/P.89/小川洋子/新潮社/1500円)

『博士の愛した数式』